イントロダクション
日本語の縦書きは、紙上だけでなくデジタルコンテンツでも独特の美しさと読みやすさを保つ重要な表現手法です。
近年では、Webページや配信資料でも縦書き文章が求められるケースが増えています。
しかし、PDFという固定レイアウトのフォーマットは「横書き」を前提として設計されているため、縦書きにする手順はやや煩雑に感じられます。
この記事では、**「PDFで縦書きを実現する」**ための代表的なツールと簡単手順、さらに各手段のメリットとデメリットを比較し、最適な一歩を踏み出すための情報を提供します。
縦書きPDFに必要な要素
| 要素 | 説明 |
|---|---|
| 文字入力環境 | Word、LaTeX、InDesign、Scribusなど、縦書きに対応したエディタ |
| フォント埋め込み | PDFを閲覧する全デバイスで正しく字形が表示されるよう、フォントを埋め込む |
| レイアウト設定 | 行間、文字間(\kanjiskip)、行位置、角度などを調整 |
| エクスポート・変換 | PDFへの出力設定で「縦書きモード」を有効にする |
1. Microsoft Word(2020 以降)で縦書きPDFを作る
Wordは日本語の縦書きをデフォルトでサポートしています。手順は以下のとおりです。
-
段落書式を縦書きに設定
-
書式>段落>文字方向で「縦書き」を選択。 - 文が自動的に縦書きになります。
-
-
ドキュメント全体を縦書きにする
-
レイアウト>ページ設定>縦方向で「横書き」→「縦書き」に変更。
-
-
PDFとして保存
-
ファイル>保存 & 送信>PDF/XPS ドキュメントの作成。 - ここで「プロパティ」→「フォント埋め込み」にチェックを入れてください。
-
ポイント
- Wordは「縦書きのカラム」も作成可能。
- 画像付きのレイアウトは縦書きモードでの位置合わせが難しい場合があります。
2. LaTeX(pLaTeX・LuaLaTeX)で縦書きPDFを制作
LaTeXは高品質な組版が自慢で、縦書きも極めて汎用性があります。最も簡単な設定例を2つ紹介します。
2‑1. pLaTeX(日本語用 TeX ディストリビューション)
\documentclass{ltjsarticle}
\usepackage{zxjafont}
\setCJKmainfont[BoldFont=IPAexGothic-Bold]{IPAexGothic}
\usepackage{zxjatype}
\pagestyle{empty}
\begin{document}
\begin{center}
縦書き文章
\end{center}
\end{document}
-
ltjsarticleは縦書き対応のクラス。 -
zxjatypeで縦書きモードがデフォルト。
2‑2. LuaLaTeX + polyglossia
\documentclass{article}
\usepackage[danish,english,japanese]{babel}
\usepackage{luatexja}
\usepackage{fontspec}
\setmainfont{IPAexGothic}
\begin{document}
\begin{vertical}
縦書きサンプル
\end{vertical}
\end{document}
-
luatexjaはLuaLaTeX用の日本語パッケージ。 -
vertical環境で手動設定。
メリット
- フォント・字形制御が極めて細かい。
- 版面設計の自由度が高い。
デメリット
- コンパイルに慣れが必要。
- 初期設定がやや複雑。
3. Adobe InDesign で縦書きPDFを生成
InDesign はプロフェッショナル向けのデスクトップパブリッシングツールです。縦書きレイアウトは「縦書きテキストフレーム」を作るだけで簡単になります。
- 新規ドキュメント作成時、縦書きページ を選択。
- テキストフレーム を縦書きモードで配置。
- フォントを「縦書き対応フォント」に設定。
-
ファイル>エクスポート>Adobe PDF (印刷)。- ここで フォント埋め込み を必ずオンにします。
Tip
- 「縦書き文字」オプションを有効にすると、縦文字ごとに自動でカーニングが調整されます。
Cost
- Adobe InDesign は年間購読制。 ただ、業務レベルのレイアウトツールとしては圧倒的な機能を持っています。
4. Scribus(オープンソース)で縦書きPDFを作成
Scribus は無料で使えるデスクトップパブリッシングアプリ。縦書きには以下の設定が必要です。
- 新規ドキュメント の設定で「縦書き」を選択。
- テキストフレーム作成時に「縦書き」チェックをオン。
- フォントを「縦書きモード対応」に設定。
-
ファイル>エクスポート>PDF.
長所
- 無料、オープンソースなので機材を大幅に節約。
- 基本的な縦書きレイアウトはサポート。
短所
- フォント埋め込みや縦書きレイアウトの細部設定が少し手動。
- 高度な版面デザインや日本語固有制御が限定的。
5. PDF を縦書きに変換(後処理)
既存の横書き PDF を縦書きへ変換する場合は、直接的に「縦書き」にする機能はほとんどのツールにありません。
代わりに以下のような方法があります。
| 方法 | 具体策 | 実装コツ |
|---|---|---|
| 画像として抽出 | pdftoppm 等で PDF を画像化し、画像編集ツールで回転 |
画像サイズが大きくなる |
| OCR + 縦書き | Tesseract でテキスト抽出 → LaTeX で縦書き再構成 |
OCR 精度を確認 |
| InDesign / Scribus で再入力 | テキストをコピー&ペースト | 文字位置調整に時間 |
6. 重要な設定ポイント:フォント埋め込みと文字位置制御
- フォント埋め込み:PDF を共有する際は、必ず文字を読めるようにフォントを埋め込みましょう。
-
文字間(\kanjiskip):LaTeX では
\kanjiskipで縦書き間隔を調整。 - 行間:縦書きの場合、文字間隔と行間は互いに影響します。InDesign では「行間」スライダーで微調整。
7. ツール比較表
| ツール | 価格 | 学習コスト | 主要強み | 主な弱み |
|---|---|---|---|---|
| Microsoft Word | 無料〜 | 低 | 手軽に縦書き | 高精度レイアウト不可 |
| pLaTeX / LuaLaTeX | 無料 | 中 | 高品質組版 | コンパイル作業が面倒 |
| Adobe InDesign | 有料 | 低 | 版面設計・フォント管理 | 価格負担 |
| Scribus | 無料 | 中 | 無料・オープン | 機能が限定的 |
| PDF 変換ツール | 無料/有料 | 高 | 既存PDFの即時変換 | 操作が複雑 |
8. よくあるトラブルと対処法
| 問題 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| フォントが切れて表示される | フォント埋め込み不足 | PDF作成時に「埋め込む」を必ずチェック |
| 行間が狭い | \kanjiskip の設定が弱い | LaTeX で \kanjiskip=1.5zw 等に加える |
| ひらがな・カタカナが回転してしまう | 文字向き設定が誤っている | InDesign/Word の「文字方向」を確認 |
| PDF が印刷で横方向に出る | PDF のページ設定が誤っている | ページ設定 → 「縦書き」を再確認 |
9. まとめ:最適な縦書きPDF作成ステップ
-
目的と予算を明確に
- 少量であれば Word/Scribus、量産なら LaTeX/InDesign。
-
入力ファイルを用意
- テキストは UTF‑8、日本語フォントの確認。
-
縦書きモードに設定
- それぞれのツールで縦書きフレームやページを有効に。
-
PDFエクスポート時にフォント埋め込み
- 読み手全員に同一表示を保証。
-
レイアウト精査
- 行間・文字間を微調整し、印刷前に PDF プレビューで確認。
縦書きは「見た目」に大きく影響します。
正しいフォント埋め込みと文字間管理を行うことで、デジタルでも紙と同等のクオリティを実現できます。
ぜひこの記事の手順を参考に、あなたのプロジェクトに最適なツールと設定を選んでみてください。


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