印刷に必要なPDFを開いた瞬間に「描画エラー」や「ファイルが壊れています」と表示され、プリンタに送ることができない――そんな経験はありませんか?
印刷に失敗する原因はファイル側だけでなく、ビューアソフトやプリンタドライバ、フォントの扱いまで多岐にわたります。この記事では、PDF描画エラーを放置しておくと印刷できなくなる危険性を理解し、具体的な対策まで解説します。
まずはエラーの本質を整理し、順に検証していきましょう。
PDF描画エラーとは?
PDFを開く際に、ビューアは「描画」処理を通じてビジュアルを画面に描き出します。
「描画エラー」とは、ビューアがその処理を完了できず、ページ全体・一部が正しく表示されない場合に発生します。
印刷時はこの描画が再度行われるため、描画エラーが残っていると印刷が失敗します。
- 画面に「ページは破損しています」
- 印刷ダイアログで「印刷できません」
- PDFを開いたときに「PDFファイルの内容を抽出できません」
これらは「描画エラー」が原因であるケースがほとんどです。
よくある原因
1. PDFファイル自体の破損
- 転送途中でデータが失われる
ダウンロード、コピー・貼り付け時に破損することがあります。 - 保存時に不具合が起きる
アプリのクラッシュや電源障害で途中止まったファイルです。
2. フォントが埋め込まれていない
PDFはフォント埋め込みで正確にレイアウトを保ちます。
埋め込みされていないフォントがあると、ビューアが代替フォントを探しに行き、描画エラーになることがあります。
- 特に日本語フォントは埋め込みが必須です。
- 低スペックの環境では埋め込みを省略されやすい。
3. PDFビューア側の問題
- 古いバージョン:新しいPDF仕様に対応していない。
- 設定ミス:ハードウェアアクセラレーションやPDF/X設定が影響。
- プラグインや拡張機能:Adobe Readerの拡張機能がバグを起こすケース。
4. プリンタドライバと互換性
- Windows 10/11の新しいプリンタドライバはPDFのレンダリングがビルトイン
ただし古いドライバは「PDFレンダーに失敗」することがあります。 - 互換モードで古いシステムに合わせるとき、描画エラーが増える。
5. 許可設定(Print restrictions)
- PDFに「印刷禁止」設定がある場合、ビューアは描画できてもプリンタに送れません。
- 一部のPDFは「印刷時に高解像度で描画」設定があり、プリンタ側で処理が行き詰まることがあります。
6. 大きなサイズ / 高解像度
- 圧縮されていない大きな画像や高解像度のテキストは描画に膨大なメモリを消費。
- PCのメモリ不足で描画が途中で停止。
エラーの診断方法
1. エラーメッセージを確認
ビューアやブラウザが表示するメッセージは手掛かりになります。
「ページが破損しています」「フォントが見つかりません」など。
2. ビューアのログを確認
- Adobe Reader:
ファイル > プロパティ > セキュリティで詳細情報 - ブラウザ: 開発者ツールのコンソール
- Linux:
/var/log/syslogやdmesgでエラーログ
3. 別ビューアで試す
- Adobe Acrobat Reader (古いバージョンで試す)
- Foxit Reader
- ブラウザ: Chrome, Firefox, Edge
- macOS Preview
- Linux: Evince, Okular
別ビューアで成功すれば「ビューアの問題」。
4. コマンドラインツールで検証
# PDFをテキスト化して壊れていないか確認
pdftotext input.pdf output.txt
# GhostscriptでPDFをリフレッシュ(再生成)
gs -o output.pdf -sDEVICE=pdfwrite
解決策
1. PDFの再生成・修復
- 元のソースから再印刷
可能ならもとのWordやInDesignで再出力します。 qpdfで「リーフの再構成」を試す
qpdf --repair output.pdf
- Adobe Acrobat Pro の「PDFを修復」機能
2. フォント埋め込みを行う
- PDF作成時に「フォントを埋め込む」設定を必ずオン。
- 既存のPDFに埋め込むツール
- Adobe Acrobat Pro →
ファイル > プロパティ > フォント pdf2psとps2pdfで変換するとフォントが埋め込まれる
- Adobe Acrobat Pro →
# Ghostscriptでフォント埋め込みを強制
gs -sDEVICE=pdfwrite -dEmbedAllFonts=true -o output.pdf input.pdf
3. 代替ビューア・ブラウザを使用
- SumatraPDF (Windows) – 軽量で高速、描画エラーが少ない。
- Okular (Linux) – PDF/Xやフォント埋め込みに強い。
- Chrome / Edge – ブラウザのPDFレンダリングは常に更新。
4. プリンタドライバを更新 / 再インストール
- プリンタメーカーの公式サイトへ。
- 最新の「ドライバ + ソフトウェアパッケージ」をダウンロード。
- 古いドライバを**「アンインストール」**し、再インストール。
- Windows の「デバイスとプリンター」から 「プリンターのプロパティ」 → 「詳細設定」 で 「ハードウェアアクセラレーションを無効化」。
5. PDFを画像化して印刷
描画エラーが発生する部分は画像化で解消。
- Adobe Acrobat Pro →
ファイル > 出力 > 画像として保存 - Ghostscript:
gs -sDEVICE=png16m -o page_%03d.png input.pdf
画像を画像として印刷すれば、描画エラーは無視されます。
6. プリンタ設定を調整
- 印刷解像度を「150 DPI」以下に下げる。
- **「出力モード」を標準」にする。
- **「プリンタのオフセット」**や 「スケール」 を 100% に設定。
7. PDF/X などの仕様に合わせる
- 企業印刷や業務の印刷の場合は PDF/X-1a で作成。
Ghostscriptの XPS 変換オプションを使う。
gs -dPDFA=2 -dBATCH -dNOPAUSE -sDEVICE=pdfwrite -sOutputFile=pdfa.pdf
具体例
Windows 10 + Adobe Acrobat Reader
| シナリオ | 対策 |
|---|---|
| 「ページが破損しています」 | qpdf --repair file.pdf で修復 |
| フォントが見つからない | gs -sDEVICE=pdfwrite -dEmbedAllFonts=true で再生成 |
| ハードウェアアクセラレーションが原因 | 設定 > システム > ディスプレイ > 高度なディスプレイ設定 > グラフィック設定 で「フルスクリーンモード」を無効化 |
Windows 11 + Chrome
| シナリオ | 対策 |
|---|---|
| 「印刷できません」 | Chrome の印刷ダイアログで「ページサイズを正確に再現」オプションを有効化 |
| PDFが大きすぎる | Ctrl + Shift + P > 「設定 > PDF 文書 > ディスクに保存」> 再び印刷 |
macOS + Preview
- Preview から印刷で「オリジナルを印刷」オプションを選択。
- フォントは「フォントを埋め込む」設定が不十分な PDF では Preview しか正しく描画できない場合があるため、Adobe Acrobat で再生成。
Linux + Evince
| シナリオ | 対策 |
|---|---|
Evince がメモリ不足でクラッシュ |
G_DEBUG=fatal-warnings evince file.pdf で詳細ログ確認 |
| PDF が壊れている | pdfinfo -f 1 -l 1 file.pdf で初期ページ情報を取得し、壊れたページを除外する。 |
よくある質問(FAQ)
Q1. 印刷時に「PDF への変換に失敗しました」と表示されます。
A1. 「Adobe Reader」ではなく「プリンター専用ソフト」(例: HP ePrint)を使ってみると解決する場合があります。
Q2. PDFを開くと「フォントが不足しています」とだけ出るが、テキストは見える。
A2. これは視覚的には表示されても、プリンタに送るとフォントが見つからないため描画できません。フォントを埋め込むか、別ビューアで「印刷を許可」設定を確認してください。
Q3. 画像化したPDFは印刷できるのにテキスト版はできない。
A3. テキスト版ではフォントが埋め込まれていない、またはレンダリングエンジンの問題です。画像版は描画エンジンを経由しないため動作します。
Q4. 何度も修復を試したのに変わらない。
A4. その PDF は物理的に破損している可能性があります。別のコピーを取得してください。
まとめ
- PDF描画エラーはファイル、その設定、ビューア、プリンタドライバなど多層的に要因が絡み合う
- 根本的な対策:フォント埋め込み、PDFの再生成、ドライバ更新
- 対処段階:別ビューアで開く、ハードウェアアクセラレーションを無効、画像化して印刷
- エラー確認は「メッセージ・ログ・別ビューア」から逐次行い、原因を絞る
印刷で失敗したらまず「ファイルの再生成」「フォント埋め込み」「ドライバ更新」を試み、次に「ビューア変更」「画像化」の手段へ。
長期的にはPDF/X-1a で作成し、フォント埋め込みをデフォルトにすることで「描画エラー」の発生を抑制できます。
どうぞこれらの手順を試し、PDF印刷のトラブルを一挙解決してみてください。


コメント